システム開発・運用を含めた非コア業務は外部に委託し、社内リソースをできるだけコア業務に集中すること(選択と集中)が企業の競争力強化につながるという考え方があります。この考え方に従い、さまざまな業務が外部委託されるようになってきましたが、必ずしもすべてのケースで思ったようなメリットを享受できているわけではありません。その結果、再度内製化を進めようとする企業も徐々に増えてきています。本記事では内製化の基本的な知識と進める際のポイントについて解説します。内製化検討の際にぜひご参考ください。
内製化とは?
内製化とは、元々非コア業務やシステム開発・運用などの業務を外部委託していたものを、自社の社員や設備などの社内リソースを使って実施するように切り替えることです。英語では「insourcing」と称され「outsourcing(外部委託)」の対義語となります。
現在、間接業務などの非コア業務やシステム開発・運用を中心に専門企業へ外部委託している企業が多くありますが、それらの外部委託が必ずしも自社にメリットをもたらすとは限りません。たとえば、国内では社内システムの設計から開発、運用、監視に至るまですべて外部のSIerなどに丸投げしてしまうケースが多く見られます。しかしそれがIT関連コスト増加や障害発生時の対処の遅れ、さらに市場変化に対する対応の遅れなどの課題を発生させる場合があります。そのことが昨今、内製化が注目されている背景にもなっています。
内製化を図る場合は、現在外部委託している上記のような業務を含む、自社で実施しているすべての業務がその検討対象となることに留意しましょう。
内製化の目的
業務効率化
内製化の目的のひとつは業務を効率化することです。外部委託する先は専門業者であることが多いのですが、自社の業務を熟知しているわけではありません。従って、定型的な業務は効率的にこなすことができても状況判断が必要な非定型業務が発生すると逆に効率が悪くなります。また、業務フローの改善による抜本的な効率化も外部委託では難しいでしょう。-
経費削減
外部委託の料金体系は、一般的には月額固定費+オプション追加料金としているケースが多いのではないでしょうか。この料金体系の場合、たとえ固定費が安価でも、実際の業務では想定以上にイレギュラー処理が発生し、それが経費を押し上げることになります。内製化すればそれらをすべて社内リソースで賄うことができ、経費削減につながります。
内製化のメリット
メリット① スピーディーな対応が可能になる
内製化のメリットとして考えられるのが、まず業務のスピードアップです。対応するスケジュールや対応内容などに関しての調整を必要に応じて実施できるため、最も効率的な方法で業務を実施することができます。またその時々の業務の状況や優先度に従った対応が可能になります。
加えて、社内で完結するため業務依頼時のプロセスがシンプルになり、たとえば至急対応が必要な場合でも素早い対応ができるようになります。システム開発の場合、外注先との調整が不要になることで開発・改善のスピードが速まり、デジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに迅速に推進することができます。
情報共有や意思疎通もスムーズにいくので確認作業なども必要最低限で済みます。さらに、外注先との契約締結や内容調整の手間がなくなるのもメリットでしょう。
メリット② コスト削減
次に考えられる内製化のメリットはコスト削減です。内製化によって現在発生している外部委託費用が不要になるため、その分のコストが削減されます。外部で実施していた業務を社内に移すことになるので、それに必要な社内リソース分のコストが増える恐れがありますが、少なくとも外部委託先で発生していた利益分は還元されるはずです。
また、専門性の高い業務や特殊な業務であるほど外部委託費用が高額な場合が多いでしょう。専門性が高いために外部委託費用が高額になりやすい業務の代表格が、システム開発・運用などのIT関連業務です。そのような業務を内製化できればさらにコスト削減効果が高くなることが期待されます。
内製化後に業務のムリ・ムダを省いて効率化することができれば、さらにコストを抑えることも可能です。
作業や業務の中のムダを排除して、より価値が高いものだけをおこなえるようにやり方を変える「カイゼン活動」においても、3M=ムリ・ムダ・ムラの削減は重要とされます。内製化をより効果的なものにするために、カイゼン活動は相性のよい取り組みといえるでしょう。
こちらの記事では、世界的にも有名なトヨタ式カイゼンについて解説しています。カイゼン活動を効果的にするポイントも紹介しているので、ぜひあわせてお読みください。
トヨタ式「カイゼン」とは?5S活動、3M削減など企業の成長を促す取り組み事例
メリット③ 業務ノウハウの蓄積
業務を外部委託している場合、日々の業務に加えて都度発生する課題も委託先の企業が解決してくれるため、非常にありがたい存在です。しかしその反面、対象業務に対する実践的な知識やノウハウが社内にほとんど蓄積されないという課題があります。極端な場合、外部委託してから長期間経たために対象業務に精通している者が社内からいなくなり、業務やシステム全体がブラックボックス化してしまうというリスクが存在します。内製化によって実際の業務に携わることにより、業務理解と実践的なノウハウが身に付きブラックボックス化を防ぐことができるでしょう。
同時に日々発生する課題の解決やさまざまな修正・変更に対応することで社内に業務ノウハウが蓄積されれば、中長期的な人材育成にもつながっていきます。さらに、業務ノウハウを身に付けることで業務改善のスピードも速まっていくでしょう。
メリット④ 柔軟で臨機応変な対応
外部委託している場合、依頼できる内容や方法、タイミングなどはあらかじめ決められていることがほとんどです。イレギュラーな依頼は対応できないか、もしくは対応できても大抵は調整や追加コストが必要です。内製化した場合は、イレギュラーな依頼でも業務上の条件さえ許せば対応することができます。
また、業務の内容は時間と共に少しずつでも変化していくものですが、内製化によってそれに合わせて処理方法やフローなどを常に最適化することで、効率性や品質を落とさずに柔軟に業務を遂行していくことができます。これは、市場の変化に対応して事業や業務の内容を変える場合でも臨機応変に対応でき、自社の市場における競争力を維持・強化できることを意味します。
メリット⑤ セキュリティ向上
業務を外部委託する際には、さまざまな情報を委託先などの外部に持ち出す必要がありました。しかし内製化すればそのような持ち出しの必要がなくなり、情報漏洩リスクが低減します。
個人情報は非常に大切な情報であることは言うまでもありませんが、それに加えて企業の業務情報もまた重要かつ大切な情報資産です。外部委託先に落ち度がなくても、サイバー犯罪の手口は日々巧妙になってきており、「できるだけ情報を外部に持ち出さない」ことも重要なセキュリティ対策だと言えます。今後も、サイバー攻撃の巧妙化や高度化が予想され、それに対するセキュリティ対策の重要性も増していくことが考えられます。それに伴い、今後ますますセキュリティ対策の重要性が増していくでしょう。
内製化のデメリット
デメリット① 人材育成に時間とコストがかかる
内製化のデメリットのひとつが、対象業務を任せることができる人材の育成に時間とコストがかかるということです。対象業務の経験や知識を持つ人材が社内に存在すれば、それほど負担にはならない可能性もあります。しかし、外部委託の期間が長くなるほど、そのような期待もあまりできなくなるでしょう。従って多くの場合、一から人材を育成する必要があり研修などに要する期間も必要になります。
業務内容によっては、机上研修からはじめてOJTなどのトレーニングも必要になることもあるので、戦力化には相当の期間を要することを事前に加味しておく必要があります。さらに外部研修などを利用する場合はその分のコストもかかるほか、適切な人材が社内で見つからない場合は新たに人材を採用する必要が生じるかもしれません。
デメリット② 設備投資や運用コストが必要になる
人材の準備のほかにも、業務を遂行するためのさまざまな設備や道具類が必要になり、これも内製化のデメリットと言えます。たとえばIT業務の内製化においては、パソコン端末やサーバー、ネットワークなどのハードウェア、業務管理などに必要なソフトウェアやツール類の準備が必要です。また、IT以外でも業務実施場所の準備や什器備品類、消耗品などが必要になってきます。
業務遂行のために具体的にどのような設備・道具が必要で、どの程度のコストがかかるのかは最低限把握しておくことが重要です。設備などによっては保守や運用などのランニングコストが必要になる場合もあるため注意が必要です。反対に初期投資を抑えたいのであればレンタルやSaaSタイプのシステムを選択することも検討すると良いでしょう。またこれらの業務に必要な設備やソフトウェアの準備に関しても、調達や開発に時間を要する場合があるので、事前に調達時間などを調査しておくことも必要です。
このような設備や運用コストの把握には、業務フロー図も有効です。業務フロー図を用いて、業務の一連の流れを示し、具体的に社内で運用されるデータや書類、それに関わる人・モノ・時間・場所などを把握しておくことで、内製化を検討する際にも、必要なコストや設備・人員などの情報をより漏れなく正確に整理することができるでしょう。
業務フロー図の使用例や書き方はこちらの記事でも紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
デメリット③ コスト意識が低くなる可能性がある
外部委託の場合は、対象業務の外部委託費用として明確に可視化されるため、コストの把握が容易でした。しかし内製化によってその把握が難しくなります。
内製化の際の対象業務に関わる実際のコストは、業務に関わる人件費や設備、道具類などの費用として計上されることになります。しかしそれらの社内費用は経理システムなどからは確認することはできますが、一般的には常にだれでもアクセス可能な情報ではありません。さらに、人件費を含めてそれらのコストをほかの業務と明確に区分できない場合も現実的には多く発生し、そうなると正確なコストの把握が難しくなります。その結果、細かなコスト管理が難しくなりコスト意識が低下してしまう恐れがあります。事前にどのような方法でコスト管理するのかを取り決めておくことが大切です。
内製化するにあたっておさえたいポイント
① 自社特有の業務または中核的な業務か
内製化のメリットとして「業務ノウハウの蓄積」を挙げました。どの企業でも同じような業務であればそこで蓄積されるノウハウにはあまり差が生じません。しかし自社特有の業務の場合、その業務ノウハウ自体が重要な資産といえます。このような資産価値の高い独自性を有する業務は、内製化によって業務ノウハウが漏洩するリスクも抑えることができるため、内製化の意義も大きくなります。また、独自業務ほどではありませんが、中核的な業務や今後成長が見込まれる事業なども同様の考え方で内製化する価値が高くなります。
② コスト試算する
内製化によって外部委託費用はそっくり削減されます。しかし反面、内製化した業務に携わるスタッフの人件費や、業務を遂行するために必要な設備投資などが発生します。対象業務の内容や量など、さまざまな条件によって新たに発生するコストは大きく変化します。したがって、実際に内製化を検討する場合は、ケースバイケースで必要なコストを試算した上で、外部委託費用と比較するなどして内製化の良否を判断する必要があります。また、内製化によって単純に見た目のコストが下がらない場合もありますが、そのような場合でも内製化の効果を測るために、事前にコスト試算を実施しておくことは欠かせません。
③ 必要かつ適切な人材や設備、環境などを準備・確保する
内製化に際しては、対象業務を実施するための人材や設備、そして環境を準備する必要があります。どのような人材が何人必要か、どのような設備や環境を準備すれば良いのかなどをリストアップした上で、実際に期限までに確保できるのかどうかを確認する必要があります。もし確保できない場合は、代替手段を検討しましょう。
また、内製化を進めるために何らかのシステムが必要な場合は、対象業務に適したシステムを選定する必要があります。その際に留意したいのは、できるだけ情報システム部門の介在が必要のないものを選ぶこと。内製化の実績が豊富かつ、自部門で運用できるノーコード・ローコード開発基盤を選択することで、対応スピードや柔軟性などの内製化のメリットをより享受することができます。
④ 内製化を目的にしない
内製化はあくまでコスト削減や業務効率化のための手段です。従って「内製化ありき」で進めてしまうと失敗してしまう恐れがあります。内製化によって具体的にどのようなメリットが生まれ、反対にどのようなデメリットが生じるのかを洗い出したうえで、内製化の是非を判断する必要があります。また、内製化の方法もさまざまな選択肢があるはずですので、ひとつのやり方にこだわらずに広い視野で検討する方が良いでしょう。内製化の対象範囲に関しても、業務のすべてを対象にするよりも一部を内製化した方がメリットが大きくなるケースもあります。いろいろなケースを想定して柔軟に判断することで内製化を成功に導くことができます。
内製化の事例
具体例① DeNA
DeNAでは、従来既存のツールでシステムの脆弱性診断をおこなっていましたが、そのツールでは一部要求を満たすことができないところがあったため内製化に着手。開発したツールをセキュリティチームで共有して全体で使用するようになりました。その後、機能拡張をおこない汎用性を向上させ、現在では同チームになくてはならないツールになっています。内製化によって年間1億円以上の外部委託費を削減。対応スピード向上や社内へのナレッジ蓄積というメリットも生まれています。自社開発した脆弱性診断ツールは、「セキュリティ業界全体の手助けになれば」という思いからオープンソース化しています。
具体例② ファーストリテイリング
ファーストリテイリングは2020年7月に自社開発プラットフォームを稼働。同プラットフォームは、ものづくりから販売までをEnd to Endで一貫して担うファーストリテイリングならではのビジネス全体の成長を加速させるためのもので、自社開発のデジタルコマースプラットフォームをグローバルで統一します。従来はブランドや国、地域ごとで異なるECプラットフォームを使用していましたが、標準化が難しく利便性にばらつきが生じていました。しかし自社開発のものを稼働させたことで、迅速に横展開ができ、素早いアップデートを繰り返すことで顧客の要望にも応えることができています。
具体例③ エディオン
エディオンは、基幹システムのクラウド移行に伴い、それまで外部ベンダーに大きく依存していたシステム開発の内製化を推進。開発スピードや社内に知見やノウハウがたまりにくいといった課題の解決を目指しました。
社員自らの挑戦、課題解決により成功体験を積み重ねることで、徐々に意識改革をおこない、そのもとで移行プロジェクトを完遂。これにより、システムの状態可視化や知見の獲得だけではなく、情報システム部門の働き方の変化という効果も得ています。
また、PLANTでは外部委託によるメンテナンス時間・コストという課題を解決し、さらなるデジタル活用促進のため、内製化プラットフォームとして「SmartDB」を採用されています。PLANTの取り組み詳細はぜひプレスリリースにてご覧ください。
まとめ
内製化には業務スピードや効率、コスト、セキュリティ面などでメリットがありますが、自社で実際に業務を遂行するための人材や設備・環境などの準備が必要になります。内製化は、ただやみくもに実施しても必ずしもそのメリットを享受できるとは限りません。内製化する対象をしっかりと見極めたうえで、コスト試算、人材等の確保状況の確認などを実施し、最終的に内製化すべきかどうか、また実施するとすればどのような方法が最適なのかを判断しましょう。
また、とくにIT関連業務を外部に委託している企業が多くあります。しかし近年ノーコード・ローコードシステムが増えたことにより、これまで内製化が困難と思われた分野の業務も、今では実現可能になってきています。内製化の実現にあたり、ぜひこちらの資料もご覧ください。
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この記事の執筆者:斉藤(マーケティング本部)
通信サービス・コンタクトセンター運営などの経験を経て、2021年ドリーム・アーツに中途入社。マーケティング本部の一員として日々勉強中です。たくさんの経験をしてきたことを活かし、誰が読んでも楽しめるコンテンツを目指して、今後もたくさんの情報をお届けします!